九段理江『東京同情塔』レビュー&感想

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【あらすじ】※結末までネタバレあり
2026年の東京。現実の東京とは異なり、ザハ・ハディド案の国立競技場が建設され、2020年には東京オリンピックが順調に開催された並行世界が舞台となっている。
ここでは犯罪者が「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」と呼称され、収容施設「シンパシータワートーキョー」の建設が決まる。
シンパシータワートーキョーは、社会学者で幸福学者でもあるマサキ・セトの思想に基づいており、犯罪者が、豊かな生活を送ることを目的としている。
また、生成AIの時代が到来し、ChatGPTなどの技術が一般に普及していた。

37歳の建築家の牧名沙羅は、新宿御苑に建設される犯罪者のための施設である塔のコンペに参加し、請け負った。
しかし、その塔の名前である「シンパシータワートーキョー」がカタカナであることに違和感を覚えます。彼女は誰も傷つけないよう全方位に配慮して、言葉を自主規制しており、言葉についての考察を常に心に抱きながら生きていた。

シンパシータワートーキョーの施設自体は、犯罪者を収容するものだが、彼らを「ホモ・ミゼラビリス」というラテン語の名前で呼ぶことにも、彼女は疑問を感じる。

一方、彼女は東上拓人という15歳年下の美青年の新たな友人ができる。拓人は「シンパシータワートーキョー」を「東京都同情塔」と言い換え、彼女にいたく気に入られる。彼は建設後、塔で働くことを決めた。

レビュー&感想 オススメ度★★★★ 他の作品も読みたい

小説は面白かったが、言葉と言葉が絡み合うような複雑さがあり、一気に読めなかった。
ChatGPTを使っている自分にとって、AI言葉をのっとられそうだと未来への不安も感じる。
牧名が述べた生成AIの言葉を「ポジティブで貧乏な言葉」と言い表すのにはしっくりときた。
この小説の中では生成AIが身近に感じられ、近未来を感じた。
言葉を書く行為において、自分の言葉とAIが生成する言葉の境界がますます曖昧になるのではないかと思う。

牧名の8時間眠るところが共感した。
彼女の生活にロボットのような側面を感じた。規則正しくそういうスタイルには好感を覚えた。
評論にあった「人間味を感じない」とあるが、私は、主人公の一生懸命な生き方や言葉の使い方に人間味を十分感じた。
言葉の監獄にいることや、言葉の監視者がちゃんといて言葉で傷つけないようとする必死な姿勢にも好感を持った。

言葉

◯ポライト
丁寧な、礼儀正しい、上品な

表現

それは急に質感を獲得してべたべたと粘つき脳みその皺にへばりついた。水をかけてもかけても剥がれない。経験上、とても悪い兆候だ。(p.271-22)

文京区の丹下健三設計のカテドラルを見れば自然と神聖な思いが湧き上がってくるように、その屋根はある種、崇高で神秘的なエネルギーを私にもたらしていた。まるでひとりの女神が、もっとも美しく、もっとも新しい言語で、世界に語りかけているかのようだ。私は彼女の話す声に耳をそばだて、時には彼女に返事をした。(p.285-9)

八時間のタイマーをかける。二十四時間のうちのきっかり三分の一が、私が私に許可する睡眠時間。(p.338-15)

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